頭がガンガンしやがる

京子 ……まあ、五郎さん。利男 どうしたんですか?五郎 うん……(まだ家の方角を見る)京子 ホホホホ。ハツハハハ。五郎 なんです? どうしたんです?京子 ……いえね、あなたが此処へ来たら面白いと話してゐた所だつたの。そいで――。五郎 さうですか。……(此の場の会話には関心が持てないらしい)利男 どうしたんですか? ひどくボンヤリしてゐますね。五郎 (やつと表情らしいものを動かして)うん?……うん。なあに、ハハ、美緒の奴に家を追ひ出されちやつてね。わけもなしにヂ[#「ヂ」に「ママ」の注記]レヂレと怒り出すんだ。病人の頭の考へ出すことなんか判らんよ。ハハハ。利男 熱でも出たんぢやないかな?五郎 それさ。……心配させやがる。利男 赤井さん達はもう帰つたんですか?五郎 いや、まだ居る。利男 だいぶ飲みましたね?五郎 うん、頭がガンガンしやがる。三日ばかりロクに寝てゐないしね。利男 ぢや、やつぱり姉さん悪るかつたんですね?五郎 ……一時はもう駄目かと思つた。まるでもう死に物狂ひだ。比企さんが来てくれたんで、ありがたかつた。でも、もう大丈夫だ。いつでも一定の周期があつて、つまり峠だな……そいつの昇り坂の所では、どんなに抵抗しても人間の力では到底駄目だ。自然に頂上に来るのを待つより手は無い。やり過すんだね。下り坂にかゝると、うつちやつて置いても、多少無理をしても、平気だ。ケロリと落着いてしまふ。やれやれと言ふ所だ。あゝあ!利男 実際、すみませんねえ。五郎さんにばつかり苦労させて。

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